スタート裁判員:きょうから第1号 刺し傷CG画像、検察側証拠に
◇見て分かりやすく 衝撃避ける狙いも
東京地裁で3日から始まる殺人事件の裁判員裁判で、検察側は殺意などの立証にあたり、被害者の死因となった刺し傷の状況をコンピューターグラフィックス(CG)による三次元画像=1面NEWSLINEに写真=で示す。検察側の依頼で東京大法医学教室が作製。裁判員が容易に「見て分かる」ようにするとともに、衝撃的な写真を見る機会を最低限にする狙いがある。【武本光政】
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20090803ddm041040067000c.html
殺人事件では通常、検察や警察の求めで法医学者が遺体を司法解剖し、傷の状況などを記載した鑑定書を解剖写真とともに捜査当局に渡す。裁判で、検察側はこれらを証拠として提出してきた。
しかし、裁判員にとって、専門的な鑑定書は難解で、写真も衝撃的だ。東大法医学教室の吉田謙一教授と医学部5年の瀬尾拡史(ひろふみ)さん(24)は昨年、CGで立体的に傷の状況を再現する手法を開発した。臓器の画像を半透明にして凶器が刺さった様子をイメージしやすくし、動画でさまざまな角度から見られるようにした。CGは実際に模擬裁判で利用されている。
今回の裁判員裁判で検察側は、ナイフが刺さった状況を示すCGを証拠資料として申請し、採用された。傷の深さや角度で強い殺意があったことを立証するとみられ、裁判員の前に置かれた小型モニターと法廷両脇の大型ディスプレーに映し出す予定だ。一方、解剖時の遺体写真も立証に必要として、小型モニターか回覧で10枚前後を裁判員に見てもらう。こちらは傍聴席には見えないようにする。
製作者の瀬尾さんは大学1~2年の時、CGの専門学校にも通っていた。「裁判員裁判では、より簡単に分かりやすくし、できる限り血生臭さを避けることが求められる。三次元画像の活用が必要不可欠になるのでは」と話している。
一方、弁護側もパソコンのプレゼンテーションソフトを使ったり、現場周辺などの写真をモニターに映し、視覚に訴えて主張を展開する方針だ。
◇データ購入費用、280万円個人負担
今回採用されたCGだが、この手法の定着には課題も多い。
画像は鑑定書の「説明資料」として、検察側から依頼された鑑定医(吉田教授)の補助者として、瀬尾さんが作製した。しかし、瀬尾さんのように医学とCGの知識、技術を持つ専門家は他におらず、人材育成が急務。鑑定医がCG製作会社と協力することも考えられるが、捜査や裁判上の秘密の問題もありルール作りが必要だ。
経済的問題もある。作製には、人体内部をCG化した米国製データを利用し、そこに傷の状況や凶器を描いたが、データ購入費用約280万円は瀬尾さんが個人で負担した。作製には、傷1~2カ所の遺体で30時間程度かかるとされ、東大によると、人件費を含めたコストをどこが負担するのかも決まっていない。
毎日新聞 2009年8月3日 東京朝刊