社説:裁判員制度半年 守秘義務の議論深めて
「被告や被害者のことを考えると世の中の不条理を思い、昨晩は涙腺がもろくなりました」。8月に東京で行われた全国初の裁判員裁判終了後、裁判員の男性は会見で率直な感想を語った。隣人殺人事件で、懲役16年の求刑に対し15年の実刑だった。男性は2日後のインタビューで、時間がたつにつれ刑を言い渡した重みや不安を感じると答えてもいる。
http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/news/20091125k0000m070133000c.html
裁判は被告の人生を左右する。人間らしいまなざしを持って法廷に臨み、責任も自覚した発言である。裁判員制度が5月21日にスタートして半年がたった。各地の裁判員の会見からは、多くの人が真摯(しんし)な姿勢で取り組む様子がうかがえ、法曹関係者も前向きに評価する。
最高裁が裁判員経験者にアンケートした結果(79人が回答)でも、選任前は気乗りしない人が過半数を占めたが、終了後は97.5%の人が「よい経験をした」と感想を述べている。裁判員の経験が人生のプラスになれば、制度の意義もさらに増す。
ただ、いくつかの課題も浮き彫りになってきた。一つは守秘義務である。裁判員には「評議の秘密」などを守る義務が課され、罰則もある。そのため、会見は感想を聞くのが中心だ。立ち会う裁判所職員が、守秘義務を理由に質疑をさえぎる事態も各地でたびたび起きている。
「評議の秘密」には、各裁判官・裁判員の意見や評決の数、評議の経過が含まれる。事件当事者のプライバシーや他の裁判員の意見を暴露するのは論外として、自分の意見や評議の経過を話すのは問題ないとの考えは、法曹内部にも少なくない。
一方で、特定の裁判員が表明した意見や評議の経過についての発言が事実なのか分からないではないかと、慎重な考え方もあるだろう。
いずれにしろ、国民の健全な常識が裁判に反映されているのかチェックできないのでは困る。守秘義務が一生続くことの負担感も含め、議論を深める必要がある。
性犯罪事件は、被害者のプライバシー保護の観点から裁判員裁判として妥当か。議論はあったが、被害者の苦しみを受け止めた判決は従来より重く、司法関係者にこれまでの量刑のあり方を問うきっかけになった。一方で、覚せい剤の営利目的輸入事件のように、市民感覚とかけ離れた事件を対象とする必要があるのかとの疑問の声もある。裁判迅速化のあまり審理が拙速になっていないかも含め、政府は、3年後の見直しに向け問題点の洗い出しを進めるべきだ。
死刑求刑事件や本格的な否認事件など、裁判員裁判の真価が問われるのはこれからである。裁判員の精神的負担の重さも含め、配慮やケアに工夫してほしい。
毎日新聞 2009年11月25日 2時30分